Jonathan St. B. T. Evans, Keith E. Stanovich: "Dual-Process Theories of Higher Cognition:Advancing the Debate"
from System 1(撤回された用語)
https://scottbarrykaufman.com/wp-content/uploads/2014/04/dual-process-theory-Evans_Stanovich_PoPS13.pdf
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論文でのSystem1、System2に関する主張を簡潔に整理すると以下のようになります。
【基本的な立場】
著者ら(Evans & Stanovich)は、System1とSystem2という表現を過去に用いたが、最近ではこの用語の使用を推奨していない。その代わり、Type1プロセス(直感的)とType2プロセス(内省的)という用語を用いている。
「System 1」「System 2」という表現は、あたかも脳に明確に2つのシステムがあるような誤解を与える。
特に「System 1」という表現は、あたかも単一のシステムであるかのように誤解を与えるが、実際には多数の異なる「自律的なプロセス群(autonomous set of systems:TASS)」を指しているため、正確ではない。
「単一のシステムであるかのように誤解を与える」って英語のニュアンス?基素.icon
Type1とType2の違いは、「ワーキングメモリを使用するかどうか」と「仮想的思考(hypothetical thinking)を可能にする認知的分離(cognitive decoupling)を行えるかどうか」で定義される。
【Type1プロセス(ワーキングメモリ不使用)の特徴】
自動的で高速。
ワーキングメモリを必要としない。
直感的、無意識的、並列処理。
認知能力(知能)の影響をほとんど受けない。
【Type2プロセス(ワーキングメモリ使用)の特徴】
意識的で制御的、比較的遅い。
ワーキングメモリを必要とし、認知的分離が可能。
認知的分離とは、「現実世界に関する表象(representation)と、想像や仮定的状況に関する表象を混同しないように分離(decouple)する能力」である。
これは特に仮想的思考(hypothetical thinking)を可能にする能力であり、現実の出来事を単に処理するのではなく、仮定的・可能的な状況をシミュレーションしながら考える際に必要な能力として説明されている。
つまり、認知的分離とは、「実際の状況や自分が持つ信念」と「仮定的に想定した状況や条件」を明確に区別し、混同しないように保ちながら推論や判断を行う能力とされている。
仮想的思考(未来のシミュレーション)を行う。
認知能力(知能)と相関が高い。
【批判への対応と著者らの立場】
論文では、二重プロセス理論(dual-process theories)に対して主に5つの批判があることを認め、それらへの反論として以下を主張している。
(1) 多義的で曖昧な定義があるという批判への回答
著者ら自身も、System1, System2という曖昧なラベルを使うのをやめ、明確な特徴付けとして「自律的処理」と「認知的分離+ワーキングメモリ使用」のみに焦点を絞った。
「Type 1プロセス」は「自律的処理(ワーキングメモリを使用しない)」
「Type 2プロセス」は「認知的分離(cognitive decoupling)を伴うワーキングメモリ使用」という明確な特徴だけで定義する
(2) 属性が一貫してクラスター化されないという批判への回答
すべての属性が必ずしもセットで現れる必要はなく、重要なのは定義的な属性(自律性、認知的分離)だけである。他の属性(例えば速度や意識)は単に典型的な相関要素であり、必須ではない。
(3) 処理スタイルは連続的であり、明確な2種類ではないという批判への回答
Type1とType2の区別は質的な違い(ワーキングメモリの使用有無)であり、Type2内での個人差(連続的スタイル)は別次元の話である(思考傾向の違いにすぎない)。
(4) 単一プロセスでも説明可能だという批判への回答
すべてをルールベースで説明可能としても、Type1とType2が質的に異なる認知メカニズムに由来することを否定するものではない。著者らは、両プロセスが同じ神経メカニズムから生じるという証拠はないとして、この批判を退けている。
基素.icon単一プロセスって?
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「単一プロセス(single-process)」というのは、批判者(特にKruglanskiとGigerenzer)が提唱する考え方であり、「直感(Type1)も熟考(Type2)も、実際には同じ一つの認知プロセスによって説明可能だ」という主張
批判者は、直感的判断(Type1プロセス)も熟考的判断(Type2プロセス)も、結局「ルール(規則)」によって記述可能なので、両者は同じ単一の認知システム(単一プロセス)だと考えている。
これに対して著者らは、
確かに、Type1プロセス(直感)とType2プロセス(熟考)は、どちらも「ルール」としてモデル化することは理論上可能である。しかし、それだけで両者が「同一の認知メカニズム」だということにはならない。
著者らが主張している二重プロセス理論とは、単にルールが異なることを主張しているのではなく、「Type1(自律的処理)とType2(認知的分離+ワーキングメモリ使用)が脳内で異なるメカニズムに基づいていること」を主張している。つまり、両プロセスは脳の活動や働き方として実際に異なっている。
したがって、すべてをルールベースとして単一プロセスで説明可能であることが、「両者が脳内で同じ一つのメカニズムから生じている」ことを示す証拠にはならない。実際、脳イメージング研究などから、両プロセスが異なる脳領域で行われていることが示されている。
(5) 二重プロセス理論の実証根拠が弱いという批判への回答
Type1とType2の分離を支持する実験的証拠(課題操作、脳神経画像研究、個人差研究)が多く存在する。
例えば、ワーキングメモリ負荷がかかるとType2処理が妨げられ、直感的(Type1)応答が強くなること、脳画像研究では両プロセスに異なる脳領域が関わることが示されている。
また、認知能力の高い人ほどType2処理を活用して規範的回答を出しやすいことが個人差研究で明らかになっている。
【著者らの現在の理論の立場】
著者らの現在の理論的立場は、Type1とType2を明確に区別する「デフォルト干渉モデル(Default-interventionist model)」である。
通常、人間はType1の自動的処理をデフォルトとして行い、それに干渉(override)する形でType2の意識的思考が介入する。
Type2処理の介入は、動機付け、難易度、目新しさなどによって生じる。
以上が、この論文におけるSystem1とSystem2(現在の表現ではType1・Type2)の主張の要点です